中野区議会議員の森たかゆきです。
区政の論点シリーズ、次は1万人アリーナについて書く予定で準備をしていたのですが、昨日twitterを見ていたら気になる話題が流れてきたので、今回はそのことについて書きたいと思います。
その話題というのは、こちらです。
先日行われた区長選挙立候補予定者と子育て世代の交流会(?)に参加された方のレポートが紹介されています。
このレポートを書いた方は、「区立幼稚園の存続を求める陳情が区議会で採択されているのに、なぜ区長は区立幼稚園廃止の方針を変えないのか」について区長と直接やり取りをされたようです。このレポートによると、区長は区立幼稚園廃止の方針を変えないのは自分の判断だと明確に答えたとのことです。
これを読んだ方の中には、「区長が区議会の判断を無視することなんてできるのか」と疑問に思った方もいらっしゃるようですので、本エントリではこの疑問について応えたいと思います。
そもそも、陳情とは何でしょうか。中野区議会のHPに解説がありますので、紹介します。
1 請願・陳情制度とは
請願・陳情制度は、区政に関する事項などについて区議会に対して直接要望できる制度で、どなたでも提出することができます。区議会で審査し、採択されたものについては、区長や関係機関に送付して要望の実現を求めるほか、国や都に対して意見書を提出するなどの働きかけをします。
区民の要望を区議会に届け、その要望に応えるべきか否かを区議会が判断する仕組みです。
ここで話題になっている区立幼稚園の存続を求める陳情は、区が全園廃止方針を示したことを受けて平成28年第1回定例会に提出され、その後子ども文教委員会で審査がされ、同年第3回定例会にて自民党議員を除くすべての議員の賛成で可決されました。(余談ですが、この陳情の審査はちょうど私が子ども文教委員会の委員長を務めていた時期で、議論の仕切りなど非常に気を遣った記憶があります。)
その時の議事録がこちら。私の委員長報告と、各会派の討論が掲載されています。(この時は要望内容が少しづつ異なる内容の陳情が4件提出されていたのですが、今回はその点の説明は省きます。)
この陳情が可決されたことで、議会としては「区立幼稚園は存続すべし」という意思を示したことになります。ところが、その後も区は区立幼稚園廃止方針を変えることはなく、そのま現在に至ります。
これは極めて問題です。私も、採択された陳情に沿った対応をするよう議会で何度か求めてきました。
森委員 それで、最後に区立幼稚園の話、お伺いしたいと思います。現行の教育ビジョン(第2次)には、区立幼稚園の役割がさまざま書かれています。どれも、今読んでも重要だなというふうに思うんですが、一方、第3次の素案には、区立幼稚園の認定こども園への転換といった方針しか書かれておりません。区立幼稚園のあり方については、議会としては、その存続を求める陳情の採択といった形で一定の結論を出しているところでありますが、この判断をどう受けとめられていらっしゃるのか、そして今後どうしていくおつもりなのか、お伺いをいたします。
小山教育委員会事務局副参事(就学前教育連携担当) 議会の議決の重みは受けとめているところでございます。一方では、最も区政の基本となる10か年計画(第3次)の策定をしたばかりのタイミングでもあり、直ちに修正等を行う状況にはございません。陳情の趣旨や、その中に示されております特別な支援が必要な子どもの受け入れや、区の幼児教育に対する責務についての不安等に対しましては、区の考え方やその取り組みをしっかりお示しし、御理解いただけるよう努めたいと考えているところでございます。
森委員 区立幼稚園の民営化、こども園化方針に変更はありますでしょうか。
長﨑子ども教育部副参事(保育園・幼稚園担当) 陳情採択の重みについては受けとめているところでございますが、陳情で示された懸念や心配につきまして、理解をいただけるよう努めているところでございます。認定こども園への転換の目的でもある、10か年計画にも書かれたライフスタイルに応じた保育の拡充、こうしたニーズについては今も必要なものであり、改める考えはないといったところでございます。
「陳情採択の重みについては受けとめている」と言いながら、要望に応えようとはしていないことがご理解いただけると思います。
ここで、記事タイトルの疑問に戻ります。このように、区長が区議会の意思を無視することはできるのでしょうか。
答え。
この場合は、できません。
区立幼稚園は、中野区立幼稚園条例にその設置根拠があります。区立幼稚園を廃止するためには、この条例を廃止しなくてはいけません。今の区の方針のままでいくと、おそらくどこかのタイミングで「中野区立幼稚園条例を廃止する条例」が議会に提出されることになるでしょう。その時に議会がどういった対応をするのか。陳情採択との整合性を考えると、反対多数で否決される「はず」です。
「はず」と強調したのは、仮に陳情は人気取りで賛成をしただけという議員・会派がいたとすると、結果は読めなくなるからです。つまり、区立幼稚園を本当に残そうと考えているのかどうか、議会側の本気度が問われることになります。議会が本気で陳情の趣旨を実現しようとすれば、区長はその意思を無視することはできません。
なお、これは区立幼稚園の存続を求める陳情の場合の話です。
実は、現区長が議会で採択された陳情の内容を無視した行政運営をするのはこれが初めてではありません。東日本大震災の後、「給食から受ける子どもの内部被曝を防ぐ対策について」という陳情が提出され、平成24年第1回定例会本会議にて全会一致で趣旨採択されました。給食食材の産地公開や放射能検査を求める内容でしたが、結局これが行われることはありませんでした。それどころか、ある場所で区長はあろうことかそのことを「自分の判断」として誇らしげに語ったことすらありました。
森 区長は、先日行われた大阪都構想に関する集会に登壇をされ、特別区の公選の区長として自分がやってきたこと、やらなかったことについてさまざまお話をされておりましたが、その際、自分の判断としてやらなかったこととして挙げたものの中に、給食食材の放射能検査が含まれておりました。これは、福島第一原発事故を受けて区民から実施を求める陳情が出され、それを議会が趣旨採択しているものであります。このとき挙げられていた他の項目はともかく、こうした経緯のある給食食材の放射能検査を「自分の判断としてやらなかった」とする発言は、当時区議会でこの陳情の採択に賛成した1人として受け入れがたいものがあります。行政報告の冒頭で区長が述べられた、議会と執行機関の関係について特に異論があるものではございませんけれども、こうした発言を聞きますと、区長が議会の判断・決定の重みについて実際どのように認識しているのか疑念を持たざるを得ません。こういった疑念にどのようにお答えになるか、見解を伺います。
区長 まず、議会と執行機関の関係ということで、陳情が採択されたにもかかわらず、実施をしていない施策があるといったことについての御質問でありました。私としましては、行政報告で述べたとおり、議会との適切な緊張関係を保ちながら良好な意思疎通のもと、最大限の協力関係を築き上げていくことが中野区の発展と区民の幸福につながると、このように考えているところであります。なお、陳情が採択された場合であっても、財政的な観点やあるいは政策方針といった考え方などから、内容によっては応えられないことも当然あるわけであります。二元代表制の地方自治のもと、議会と長はそれぞれに政治的なプロセス、選挙で選ばれておりますから、それぞれに政策的な考え方というものがあるということ、このことはまず踏まえていただかなければならないと、このように思っております。
更に、平成27年第4回定例会では、「障害者福祉手当の支給について」が全会一致で採択されていますが、これも今年度に至るまで予算化されていません。
これらの場合、条例で賛否を問われるタイミングがないので、結局区長が区議会の意思を無視することを許してしまっている状況です。(予算案は当然議決をしていますが、支出を増やす「増額補正」は首長の予算編成権を侵害するため原則としてはできないと言われています。)
こうした行政運営をする区長に引き続き区政を担わせていいのか。私の判断は、明確にノーです。
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