森たかゆきのブログ

中野区議会議員(立憲民主党)森たかゆきの公式ブログです

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「中野区人権及び多様性を尊重するまちづくり条例」賛成討論

上程中の第12号議案中野区人権及び多様性を尊重するまちづくり条例について、立憲民主党・無所属議員団を代表し賛成の討論を行います。

当議案は、同時に上程されています中野区公契約条例、中野区子どもの権利に関する条例と並ぶ酒井区長の公約条例であり、区長交代があったからこそ形になったものです。

今年度は、おそらく歴史上初めて約半年の間に夏季、冬季2度のオリンピック・パラリンピックが開催されました。しかも、夏季は私たちの東京での開催でした。「人間の尊厳の保持に重きを置く平和な社会の推進」「あらゆる差別の禁止」といったオリンピック憲章の理念と通底する理念を持つこの条例がこのタイミングで採決となったことは、たまたまではありますが、非常に感慨深く感じます。

当議案提出の前段には中野区男女共同参画・多文化共生推進審議会の答申があります。私も幾度か審議会を傍聴させていただきましたが、コロナ禍で全てオンラインでの開催となったことによる困難もあったように見受けました。そうした中でも議論を積み重ねていただいた審議会の皆様と取りまとめを担った事務局の皆様に感謝申し上げます。答申本文だけでなく、参考資料の「審議会での具体的な提案」にも、交流の場づくりや拠点の整備、男性育休推進、アウティングの防止、リカレント教育などなど多くの重要な提案が記載されています。条例そのものには反映されていないものも含めて、区にはこうした一つ一つの意見を大切に受け止めて頂きたいと考えます。また、審議会で毎回のように意見の出ていた必要な予算の確保についても、毎年度の予算編成の中での対応を求めます。

以下、賛成理由について議案の内容に基づき三点述べます。

第一点目は、前文において日本国憲法の定める基本的人権の保障、法の下の平等、差別禁止を改めて確認し、その理念のもとで全ての人の自分らしさを肯定し、心豊かに安心して暮らせる地域社会の実現を目指す姿勢に賛同するためです。そうした地域社会実現のためには、第2条に挙げられている性別、性自認、性的指向、国籍、人種、民族、文化、年齢、世代、障害といったさまざまな属性を包括し人権を尊重することを明示した条例が必要です。こうした、いわゆる「人権尊重条例」を制定する自治体は少しづつ増えてきていますが、当議案では個別の属性のみでなくそれらが複合的に重なり合うことでより多くの困難を抱える方への視座が含まれている点が特徴的で、その点を特に評価します。

賛成理由の二点目は、上記の理念を実現するために単なる理念条例に止まらず、各主体の責務、常設の人権施策推進審議会の設置、相談体制整備と課題解決のための支援実施など、具体的な仕組みを盛り込んでいることです。特に、第9条、10条で具体的な人権侵害の事案についての相談体制の整備と区が課題解決のための支援を行う根拠規定を設けた意味は大きいと考えます。そうした責任を負おうとする区の姿勢を評価するとともに、相談しやすい環境の整備と相談者に寄 り添った対応がされていくことを期待します。また第7条の調査研究・情報収集の規定も重要です。基本的人権の尊重という普遍的な価値を実現するためには、逆説的ですが、その時々の状況に的確に対処する必要があります。仮に特定の人権課題が深刻化するような状況になれば、その解決のためにより強い措置を規定する必要が出ることも考えられます。その意味で、当議案は成立してそれで終わりではなく不断の見直しが求められます。まずは第7条の調査研究・情報収集に積極的に取り組んでいただくことを期待します。

賛成理由の三点目は、こうした条例で問題となりがちな表現の自由との関係で配慮が見られることです。東京都オリンピック憲章にうたわれる人権尊重の理念の実現を目指す条例第3章には「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進」が位置付けられています。こうした取り組みには賛同しますが、それ以外の表現活動の萎縮につながらないかという懸念はどうしても出てきます。当議案では改めて表現に関する規定を設けずにこうした懸念を払拭するとともに、例えばヘイトスピーチのような事案が生じたりした場合には、前述した第10条の規定を根拠に是正の働きかけができる構成となっており、この点を評価します。表現の自由の保障が民主主義国家にとって必要不可欠であることは今のロシアを見るとよく理解できますが、それだけでなく、前文にある「自分らしく暮らす」ことと、自由な表現活動とは密接不可分なものでもあります。ヘイトスピーチを決して許すことなく、一方でその他の表現活動については区民の活動を積極的に応援する取り組みを求めたいと思いますし、その点から、来年度策定予定の多文化共生推進に係る基本方針と文化芸術振興に係る基本方針の策定に期待します。

一点だけ課題を述べるとすると、これまでの議論の中で我が会派からも申し上げ、他会派の同僚議員からも指摘があった通り、他の条例との関係にやや不明確な部分が残っています。そもそも区長公約では当議案の内容は「中野区男女平等基本条例の改正」で実現するとしていました。議会での議論や審議会答申を尊重し別条例とした判断自体は妥当と考えますが、男女条例のみでなく他の関連する条例との間も含めて関係性をより明確にして頂きたいと考えます。また、これも区長公約にあった同性パートナーシップ制度の条例化は当議案には盛り込ませんでした。同性パートナーシップ制度は多くの自治体に広がりを見せ自治体間の連携の動きも出てきています。我が会派としては、条例か要綱かといった形式の前に、「公正証書を区が保障する」という中野区の独特な仕組みが本当に良いのか、対象をファミリーシップのような形に広げる必要はないかなど、制度の中身から再検討していただきたいと考えます。本年6月には東京都がパートナーシップ宣誓制度を導入する予定とのことですので、その動きも見ながら引き続きの検討をお願いいたします。

縷々述べましたが、一方でこの条例に示された理念と相反する現実もあります。国際社会の大きな反対の声をよそにロシアのウクライナ侵攻は未だ続いています。昨日のものも含め今年に入り北朝鮮によるミサイル発射が繰り返し行われています。現代を代表する政治哲学者リチャード・ローティは、現実のジェノサイドや優生思想の跋扈への対処としては、「人権とは何か」という理念的な啓発よりも、物語や会話を通じて共感可能な対象を広げていくことの重要性を説いています。そうしたプラグマティックな取り組みが行われる場とは、まさに私たちの暮らす地域社会に他なりません。

中野区には、既にダイバーシティ推進に取り組む方々が多くいらっしゃいます。そうした人々との絶え間ない連携も行いながら、中野区が当議案に規定された責務を果たしていくことで、基本構想が掲げる「国籍や文化、年齢、障害、性別、性自認や性的指向などにかかわらず、誰もが地域の一員として安心して暮らし、地域の特色や今までにない新たな価値が生み出されています」というまちの姿の実現を目指すとともに、その成果が巡り巡って世界平和実現の一助となることを期待し、賛成討論といたします。

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