森たかゆきのブログ

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厚生労働省の「年金世代間格差」漫画は何が問題なのか

厚生労働省が発表している「世代間格差の正体~若者って本当に損なの?」と題された漫画がネット上で非難の的となっています。厚労省が出した年金マンガが予想以上にひどいと話題に「厚労省の酷い年金マンガ」への反応

ネット上のこうした反応を受けて、朝日新聞も記事を載せています。(ニュースQ3)婚活で解決? 厚労省の年金PR漫画に若者反発

普段は世代間対立を煽っても実りある議論はできないと考えている私も、これは批判されても仕方のないよなぁと感じます。では、具体的に何が問題なのでしょうか。

1.数字に基づく議論の欠如

年金の世代間格差が話題になる背景には、実際にそれを示す数字が示されていることがあります。
揺らぐ年金、世代格差鮮明 40歳以下は半分割れも

具体的な数字の出ているこうした試算結果に触れずに、「今の高齢者も苦労してきたのだから、年金に差があったとしても若者が損だとは言えない」と言ったところで、若者の多くは納得しないでしょう。

2.大学に「行かせてもらっている」という認識の背景

これは直接年金の話ではないのですがどうしても書いておきたい点です。漫画の中の若者は、「好きな大学行かせてもらってるしなぁ」と先ほどの説明に納得しかかっていますが、ここにも問題があります。

図表1-1-13 国公立大学の平均授業料と奨学金を受けている学生の割合

この図は、文部科学省のHPに掲載されている「国公立大学の平均授業料と奨学金を受けている学生の割合」の国際比較をしたものです。日本の大学の学費の高さと奨学金を受けている学生の割合の少なさがはっきりと示されています。諸外国では学費を低額に押さえたり奨学金を充実させたりして、高等教育にかかる費用を社会的に負担している様子がみてとれます。「親に大学に行かせてもらっている」という感覚の背景には、教育分野の公費負担割合が低く学費等が家計負担となっているという問題があることも見逃せません。

3.公的年金制度の肯定は、世代間格差の肯定ではない

公的年金は保険なので「すべての国民が安心して暮らせることに価値がある」。漫画の中のこの主張は基本的には正しいと思います。人は、自分が何歳まで生きるかを知ることはできません。長生きをすれば、その分お金が必要になります。「公的年金」という形で誰もが共有する不確実性に伴うリスクを広く分かち合うというのは公的年金の基本的な機能と言ってよいでしょう。ただし、これは「公的年金制度は必要だ」という話であって、世代間格差を正当化するロジックにはなり得ません。

4「公的年金イコール世代間扶助」ではない

年金制度には大きく分けて「賦課方式」と「積立方式」の二種類があります。前者は現役世代の保険料を老齢世代の年金の原資にする制度で、今の日本の公的年金制度もこれにあたります。後者は現役時代に積立を行い、その運用収入を自身の年金の原資とする制度です。実際に積立方式への移行を検討するべきだという議論もなされている中で、「公的年金イコール世代間扶助」という前提で話を進めるのは問題です。

5「子育てしやすい街づくり」に向けた一番の壁は?

漫画には、「あなたが結婚して子供を産めばいい」と言われて戸惑う主人公(?)と、彼女に対して「私が頑張って子育てしやすい街づくりをしてあげるから」と言う地方公務員の友人(?)が出てきます。しかし、「子育てしやすい街づくり」は、地方公務員の個人的な頑張りだけで実現できるものではありません。

2010年に実施された第14回出生動向基本調査によると、夫婦が理想と考える子どもの数は2.42人ですが、完結出生児数(夫婦の最終的な出生子ども数)は1.96人にとどまっています。同調査「予定子ども数が理想子ども数を下回る理由」の結果を見ると、最も多い理由が、「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」(60.4%)であり、若い世代ほど割合が高くなっています。

この金銭的な不安感を裏付けるデータもあります。例えば教育段階別の在学者1人当たりの公財政教育支出を見てみましょう。こちらも文部科学省HPからの抜粋です。

図表1-1-27 在学者1人当たりの公財政教育支出(教育段階別) 全教育段階図表1-1-27 在学者1人当たりの公財政教育支出(教育段階別) 就学前教育段階

全段階で5カ国中最下位で、特に就学前教育段階の支出が極端に低いことがお分かりいただけるかと思います。こうした状況への問題意識も示さずに、地方公務員の個人的な頑張りに期待したり、ましてや「お前が子どもを産めば解決するんだから婚活しろ」と言うのであれば、若者の怒りを買うのも当然であると言えます。

(余談ですが、国民生活センターのHPには婚活サービス関係の様々なトラブルが報告されていたりもします。)

折しも、この漫画が話題になって最初の日曜日は、中野区職員が休日出勤をして国民健康保険の保険料の隣戸徴収にまわっていました。厚生労働省のこの漫画が、保険料の収納率をあげようと最前線で頑張っている地方公務員の足を引っ張っているようなことになっていないかと心配になります。

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