森たかゆきのブログ

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特別区は何故いま児童相談所の設置を目指しているのか

中野区議会議員の森たかゆきです。

港区が進めようとしている南青山の児童相談所設置計画が周辺住民の猛反発を受けているとが報じられ、大きな話題になっています。今、練馬区を除く東京特別区22区は児童相談所設置に向けて動いています。児童相談所が迷惑施設のように捉えられ周辺地域の住民から反対されてしまう例はこれまでにもあり、港区の騒動は中野区にとっても決して対岸の火事ではありません。そうしたこともあり、特別区の児童相談所設置が注目を集めているこのタイミングで、何故いま特別区が児童相談所設置に向けて動いているのか、お伝えしておきたいと思います。

特別区が児童相談所設置を目指す理由は大きく分けると、1.児童虐待の認知件数増加と不足する職員体制への対応、2.子ども家庭支援センターとの二重行政的体制の解消、の2点になります。順に説明します。

1.虐待の認知件数増加と不足する職員体制への対応

「児童虐待件数が過去最多を更新した」というニュースをご覧になったことのある方は多いのではないかと思います。厚生労働省が速報値として公表した平成29年度の全国児童相談所における児童虐待相談対応件数は13万3778件で、前年度比1万1203件増の過去最多です。中野区においては、平成 26 年度の172件をピークにしてその後の2年間は150件、117件と減少していますが、これが長期的な減少トレンドとなるかは不透明です。

児童虐待の認知件数の増加には、核家族化の進行と地縁の希薄化によって育児を抱え込んでしまう家庭が増えていること、児童虐待への社会の意識の高まりによって認知される割合が増えていること等、いくつかの要因があると言われていますが、何れにしても児童相談所が対応すべき事案は増加しています。また、多くの場合児童相談所に併設される一時保護所の定員も不足してきています。

もはや東京都の児童相談所だけでは対応に限界があり、特別区は各区で児童相談所を設置することで、児童福祉司を約120人から220人、児童心理司を約50人から約90人へ増員する、一時保護所の定員を約150人から約260人に拡充することとしています。

もちろん、人材育成には時間がかかります。中野区では、私が議会で「児童相談所の区への早期移管」を求めた7年前の時点でも職員の資格取得支援などに取り組んでいました(当時の議事録はこちら)が、今年からは他地域の児童相談所へ職員を派遣し現場で経験を積む取り組みも始めています。常勤弁護士の確保なども含めて専門人材の確保・育成には課題も多いのですが、児童相談所設置までに万全の体制が取れるよう、進捗の差はあれども各区で同様の取り組みが行われているところです。

2.子ども家庭支援センターとの二重行政的体制の解消

こちらは少し分かりづらいかもしれません。

今年3月、目黒区で「もうおねがいゆるして」と書き残して亡くなった当時5歳の結愛ちゃん虐待死事件が起こりました。厚生労働省の「社会保障審議会児童部会児童虐待等要保護事例の検証に関する専門委員会」が公表した事例検証結果には、関係する諸機関の間での引き継ぎ・情報共有が不十分で、ケースの特徴や危険度のアセスメントが不明確であったことが指摘されています。この事案の場合、都道府県をまたぐ引っ越しがあったため、児童相談所間の連携不足が注目されましたが、実は、同様の問題は都の児童相談所と区の子ども家庭支援センターの間でも起きています。組織が違う以上、情報共有といってもどうしてもタイムラグが発生してしまいますしある事案がどの程度深刻なもかといった認識にもズレが生じやすい体制になっています。

特別区は、組織間の「支援の狭間 」に落ちてしまうケースをなくし、各区で一貫した対応ができる体制を作ることを目指しています。もちろん、区に設置することにより、子ども家庭支援センターのみならず、関連する福祉関係の部署などとも連携がスムーズに行くようになることも期待されます。私が区での児童相談所設置が必要と考える最大の理由もここにあります。

以上、特別区が児童相談所設置を目指す理由をざっとまとめてみました。より詳しく知りたい方は、特別区区長会の資料「児童相談所移管の具体的課題」をご覧になってください。

 

最後に少し、これまでの経緯についても触れておきます。

特別区にとって、独自の児童相談所を持つことは長年の悲願でした。しかし、現在児童相談所を設置している東京都との協議は、ずっと思うような進展がみられない状況が続いてきました。背景にあったのは、権限と財源をめぐる組織間の綱引きです。

当初、特別区は独自での「設置」ではなく、東京都からの「移管」を求めていました(私の7年前の質疑も「移管」を求めています)。そうすると、人も財源も特別区に「移管」されることになります。特に財源については、都区財政調整制度の配分割合(都45%:区55%)の見直しというところまで議論が及ぶことになり、東京都と特別区の関係の根本にかかわる問題となります。東京都はこうしたことを嫌がっていたと言われています。(ちなみに、特別区の区長で唯一独自の児童相談所設置に後ろ向きな練馬区長さんは東京都の幹部職員だった方です。)

潮目が変わったのは、平成28年に国の社会保障審議会児童部会が「原則として中核市及び特別区には児童相談所機能をもつ機関の設置を求め」る内容を含む報告(提言)を行い、それを受けて児童福祉法が改正されたことです。これにより、特別区は児童相談所「設置」を目指すこととなりました。東京都としても法改正があったこと、「移管」ではなくなったことから、特別区児童相談所設置を前提として動くようになりました。しかし、都区で議論をすべきところを飛び越えて法改正が行われたことへの不満も燻っていると聞いています。

もう、組織間の権限の奪い合い、メンツの張り合いは懲り懲りです。関係するすべての機関が、虐待の未然防止や被虐待児を救うために何が必要か、このことを第一に考え協力し知恵を出し合っていけるようになることを、切に望んでいます。

 

2013年、金沢市児童相談所にて。
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